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対談

第12回 地域と連携し、課題を解決 渋谷区「こどもテーブル」プロジェクト

2018.11.27

地域と連携し、課題を解決
渋谷区「こどもテーブル」プロジェクト

森川 美絵 教授
津田塾大学総合政策学部 2年 吉野 まゆの さん
津田塾大学総合政策学部 2年 橋口 文美 さん
津田塾大学総合政策学部 2年 中村 円香 さん

渋谷区「こどもテーブル」プロジェクト

津田塾大学総合政策学部には、学生が教職員や地域の人たちと一体となって活動する、さまざまなプロジェクトがあります。千駄ヶ谷キャンパスが位置し、津田塾大学が包括連携協定を結んでいる渋谷区と協働する「こどもテーブル」連携プロジェクトもその1つ。区内3か所の活動拠点に学生たちがボランティアとして出かけ、子どもたちのおやつや夕食づくりを手伝ったり、一緒に遊んだりしています。プロジェクトのリーダーや副リーダーとして関わる総合政策学部2年生の吉野まゆのさん、橋口文美さん、中村円香さんに、指導に当たる森川美絵教授が活動の様子を聞きました。

森川

社会的には「子ども食堂」という活動が知られていますが、渋谷区版「こどもテーブル」は、それとは少し違うようですね。

吉野

「子ども食堂」というと「貧困」と結びつけられがちですが、「こどもテーブル」は、ただご飯を提供するだけでなく、季節の催し物を体験したり、一緒に勉強したり、世代を超えていろいろなことを楽しめる場所をつくることに重点が置かれています。ボランティアとして現在登録している総合政策学部生は、1、2年生25名。区内にある3カ所の団体に、それぞれ月1、2回ボランティアに出かけています。

森川

そもそものきっかけは、昨年度の「地域ケア論」という授業に、渋谷区の担当課長が講義に来てくださったことでした。地域でどのように子どもたちがケアされているのか、具体的な取り組みを伺い、そこに本学の学生がどのように関われるのか検討したところから始まりました。実際にいくつか活動場所を見学し、今年度から学内でボランティアを募ったのでしたね。みなさんはなぜ、この活動に関心を持ったのですか。

世代を超えた居場所づくり

吉野

私は高校生の頃から、ご飯がちゃんと食べられない人が存在することを知っていました。そのような人たちに、いかに食べ物を届けたらよいのだろう、と漠然と考え、大学に入ってからフードバンクなどについて勉強してきました。このプロジェクトに入ったのも、最初は「食」への関心からでした。

中村

私は森川先生の授業で貧困問題だけでなく、地域コミュニティや社会的関わりの大切さを知り、地域の子どもたちをコミュニティとして支える渋谷区のアプローチを学びたい、と思ったのです。

橋口

もともとは「子どもの貧困」や「教育格差」といった問題に興味がありました。でも、実際にプロジェクトに入ってみると、渋谷区では貧困よりも、子どもが安心して遊べる場があまりない、という問題があり、「こどもテーブル」はただご飯を一緒につくったり、食べたりするだけでなく、「居場所」「遊び場」としても重要な役割を果たしていることを知りました。

森川

みなさん、これまでの関心・興味がつながって参加されたようですが、いろいろな背景やルーツが合わさって現実の活動がある、ということにも気づけたのですね。具体的には、どんな活動をしていますか。

吉野

私は「代官山ティーンズ・クリエイティブ」のおやつづくりによく参加しています。小学1年生から中学生ぐらいの10数人で1つのテーブルを囲んで、みんなで調理するんです。野菜をたくさん使ったケーキのようなものを焼いたり、うどんを粉からこねたり……。家ではなかなかつくれない、ひと手間かけたものに挑戦します。普段の生活では学年や年齢で活動も区切られがちですが、ここではさまざまな年齢の子どもたちが一緒に取り組むなかで交流が生まれ、とても楽しいです。

中村

葛餅をつくった回では、まだ固まっていない状態のときに鍋からスプーンですくって子どもたちと食べてみました。「このまま、全部食べちゃいたいね」って(笑)。この活動は食育にもつながっているな、と思いました。

森川

吉野さんはリーダー、橋口さんと中村さんは副リーダーを務めていますよね。どういう思いでリーダー役を引き受けたのですか。

吉野

実は、ちょっとイヤだったんです(笑)。今まで何かの活動で人の上にたったことがなく、せいぜいリーダーをサポートする立場だったので。でも、少人数の活動なので、思い切ってチャレンジしてみることにしました。

橋口

私は責任を持った立場で外部の方と交渉する経験を、大学生のうちに持っておきたいな、と思って。吉野さん、中村さんが一緒なので、心強かったです。

中村

活動の運営方法を実際に見ることで、学びが深まるのではないか、という期待もありました。

いただくものも大きい

森川

リーダーという責任を引き受けると、持続可能な活動のために何ができるか、組織をどう回していくか、全体を見渡しながら考え、引っ張っていかなくてはなりませんよね。社会のなかで必要とされる力を、いまの段階で経験するよい機会ととらえ、チャレンジしてくださったことを、教員としてうれしく思います。何かご苦労はありましたか。

吉野

団体の方と連絡を取る際の電話やメールですね。堅苦しすぎるのも変だし、距離感や適切な言葉づかいをつかむのに苦労しました。

橋口

私も最初にお電話したとき、緊張のあまり名乗るのを忘れてしまって……。最近やっと慣れてきました。

森川

まずは「つながる」ところから始めた。大事な経験です。

中村

私は活動の最初の段階で失敗しました。個人としての私とは別に、副リーダーとしての私がいるのに、「あ、いいかもしれないですね」と気軽に、無責任な返事をしてしまったのです。先方には失礼なことでしたが、みなさん温かく受け止めてくださって。学生のうちだから許されたけれど、社会に出てからこういうことがないようにしたい、と肝に銘じました。以後、自分の役割をきちんと意識し、責任ある行動をとるよう努めています。

森川

それは、とてもよい経験をしましたね。地域のなかで子どもたちの居場所づくりに尽力されている団体には、「受け止め上手」なスタッフがたくさんいらっしゃる。学生さんたちが頑張っている姿も、ちゃんと見てくださっているのだと思います。

橋口

そうですね。スタッフの方たちがとても優しくて、私たちの話も真剣に聞いてくださるんです。だから、子どもたちはもちろん、スタッフの方たちに会いに行くのも毎回楽しみです。

吉野

いつも温かく受け入れてもらえている、というのを私も実感しています。子どもたちも「まゆちゃん」となついてくれ、帰り際は「もう帰っちゃうの?」なんて言ってくれます。本当はアルバイトを入れたほうがお金を稼げるのですが、「こどもテーブル」の活動に行けば必ず温かい気持ちで家路につけるので、大きな糧になっています。

橋口

そう。回を重ねるごとに楽しくなっていく感じ。

森川

一方的にこちらが何かをしてあげるのではなく、いただくものも大きいということですね。一緒に作業をするなかで、津田塾生も地域のなかで受け止めてもらえ、心がつながる瞬間が、回を重ねるごとに増えていく。継続した連携活動ならではのことですね。

中村

毎回、「本当に助かっています」「ありがとう」と言っていただけるのがうれしいです。原宿の「ゆめとぴあきっちん」さんからは、英語を使ったアクティビティに津田塾生の力を貸してほしい、というリクエストもいただいています。

森川

英語の企画は夏休みに1回、代々木の「かぞくのアトリエ」さんでもやりましたよね。英語を大学生のお姉さんたちから学びたい、という要望は多いので、英語の遊びやワークショップなど、今後新しい動きも出てきそうで楽しみです。「地域連携」に実際関わってみて、みなさんはどんな学びを得られていますか。

吉野

総合政策学部では地域コミュニティや政策について、いろいろ学んでいるのですが、自分のなかでこれまで「地域」って漠然としたものだったんです。それが、このプロジェクトに入って、地域って意外と簡単に関われるんだ、身構えなくても参加できるものなのだ、ということがわかった。これまで授業で学んできたことも、ぐっと身近に感じられるようになりました。

橋口

多角的に学べる、というのが総合政策学部の魅力の一つですが、なかでも「地域」という視点の大切さをこのプロジェクトから学びました。さまざまな社会問題を考えるうえで、地域は必ず関わってくるし、果たせる役割も大きい。例えば、不登校の問題なども、子どもが学校に行けるような仕組みや支える体制を地域でつくることもできます。地域にもっと参加することで、私自身の学びも深まっていくと思いました。

地域のなかで深まる学び

中村

私もそう思います。プロジェクトに参加することで、講義で学んだことを自分のなかにきちんと落とし込める。実際に経験したり、現場で課題に取り組んでいる方たちから今の困りごとなどをうかがったりし、理解や学びが深まるというか、心にすっと降りてくる感じがしています。

森川

すごい!まさに授業と連動していますね。「地域が大事」とか「地域貢献」とか言いますが、誰が、どんなことを、どのようにし、誰を受け止めるのか、どういう背景があるのか……。言葉や概念だけを知っていてもわからないし、活動だけを知っていてもわからない。2つ合わさることによって、1つひとつの特別の事例や課題への理解を深めることができるのだと思います。また、実は現場というのは私たちの身近にあって、動いているんですよね。かしこまって「課題解決」などと言わなくても、地域にすっと入り、そこで生きている人たちと想像力を豊かにしながら、協働する。そんな現場の様子がよくわかりました。最後に、今後の抱負や、これからこのプロジェクトに参加しようと思っている在学生、総合政策学部に関心を持っている高校生に何かメッセージはありますか。

吉野

まだ1年生の参加率が低いので、次の代も安定した活動にしていくのが課題です。必ず自分の役に立つ活動なので、ぜひ気軽に参加してほしいです。

橋口

継続も大事ですが、英語のワークショップなど新しい取り組みももっと増やしていきたいですね。自分の学びを実際に生かせる場って、それほど多くないと思います。楽しい活動なので、おすすめします。

中村

1年生や、参加率の低い人たちにもアプローチするため、最近写真の共有を始めました。活動の様子をもっと発信していきたいと思っています。総合政策学部には行動力にあふれた人が多く、また、やりたいと思ったことをサポートしてくれる先生方も多いです。私のように、友だちに引っ張られて何かを始め、いろいろ学んでいけることもあります。興味のある高校生には、ぜひ受験を検討してほしいです。

森川

お話を聞いて、リーダーのみなさんがしっかりと、温かく活動を支え、ご自身もすてきに成長されているのを感じました。ますます楽しい活動にしていってくださいね。

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