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対談

第10回 仕事の幅広げ、経験を「ストーリー」に

2018.08.28

仕事の幅広げ、経験を「ストーリー」に

山﨑 遥さん (IFADパートナーシップ・オフィサー)

山﨑 遥 氏 略歴

2004年3月、津田塾大学国際関係学科卒業。同年9月、英国ブラッドフォード大学大学院平和学部で紛争解決を専攻。2005年10月、ベルギーの国連大学地域総合比較研究所でインターンを経験し、2006年2月から駐日英国大使館環境・エネルギー部勤務。2008年11月から在スーダン日本大使館の経済協力調査員として激動のスーダンで約2年半過ごし、2011年8月、米国ニューヨークの国連日本政府代表部で専門調査員に。おもに女性や子どもの人権問題に携わる。2014年2月からイタリア・ローマに本部のあるIFAD(国際農業開発基金)のパートナーシップ・オフィサー。スーダン時代に国連職員のインド人と結婚、2018年に1児の母に。

津田塾大学総合政策学部には、世界のさまざまな課題を解決するために、国際機関で働くことに関心をもっている学生が多いようです。山﨑さんは津田塾大学を卒業後、数々の国際的な仕事に従事し、今はイタリア・ローマを拠点に活躍されています。国際機関で働くためには、どうしたらよいのか。津田塾大学での学びは今にどうつながっているのか。2018年7月23日、一時帰国中の山﨑さんに津田塾卒業生として大島美穂・総合政策学部教授と学生たちがお話をうかがいました。

大島

まずは、現在のお仕事について教えてください。

山﨑

ローマに拠点を置く国連の食料関係の専門機関にはWFP(国連世界食糧計画)やFAO(国連食糧農業機関)もありますが、私が働くIFAD(国際農業開発基金)は、途上国政府に低金利のローンを融資することで貧困削減や農村開発に取り組んでもらう活動をしています。主体はあくまでも途上国の政府や農民自身で、我々は彼らが自立するための後方支援をおこなう、というアプローチが面白いと思っています。私は、主にローンの原資となる拠出金を各国から募る仕事を任されています。アジア・太平洋地域担当なので、日本政府と交渉する機会が多いのですが、最近は中国やインドなども非常に重要なドナーとなっています。また、支援する農家が作る様々な農作物を公正な価格で民間企業に買い取ってもらう、といったパートナーシップも進めています。

大島

今のお仕事に就く前は駐日英国大使館で環境問題に携われ、その後、独立前のスーダンでは開発、ニューヨークの国連本部では人権問題に関わるお仕事でした。いろいろなテーマ、仕事を経験され、ステップアップしてきたのですね。

山﨑

確かにその時々でフォーカスが違うのですが、自分のなかでは全て理由があって動いてきた結果です。英国大使館環境・エネルギー部の仕事は、「国際的な仕事に就きたい」と思っていた時にオファーをいただきました。当時、環境問題は大きな国際テーマになっていて、イギリスはその旗振り役を担っていました。私は環境問題の専門家ではありませんでしたが、興味を持っていた「開発」とからむ問題でしたし、外交官が実際にどのように仕事をするのか、外交の仕事を知る貴重な一歩にもなりました。その後、スーダンで経済協力調査員として、もともとやりたかった開発や途上国での仕事を得ることができました。いろいろな国際機関が、例えば難民キャンプなどの現場でどのような仕事をしているのか、実際に見ることもできました。現場を知ると、次はもっと大きなレベルで議論し、問題を見たいと思うようになり、ニューヨークの国連本部へ。日本政府代表部の専門調査員として、大きな枠のなかでの政治の流れや交渉の仕方を学ぶことができました。それぞれの経験を通し、「次はこういうことをやりたい」と思いながら動いてきました。分野は違っても、自分の経験をきちんとしたストーリーにして伝えられるかどうかが大事。国際機関で働くうえでは、さまざまな分野、テーマで経験を積んでいくことは仕事の幅を広げることになり、むしろプラスになると思います。

大島

そもそも国際機関を目指したのは、なぜですか。帰国子女でもないし、ごく普通のご家庭で育って……。

山﨑

突然変異です(笑)。でも、開発に関わりたい、という思いはずっとありました。自分はたまたま日本に生まれてきただけで、もしも途上国に生まれていたなら、開発問題は日常生活の一部であったはず。どこに生まれるか、自分で選択できないスタート地点で人生に差ができるというのは、すごく不公平だな、というのが私のボトムラインにあります。この思いは大事にしたい。あとは、単純に日本だけでなく、いろいろな国の人と仕事をしたいな、と。それは津田塾大学や留学などでいろいろな人とつながる機会があり、外とつながる面白さを知ったからです。 二つの思いがつながって、最終的に国際機関の仕事を得たわけですが、大学を出てすぐに国際機関で働ける、というケースは稀だと思います。「国際機関に行く」ということだけをゴールにするのではなく、何をやりたいのか、自分のなかではっきりさせつつ、その過程で国際機関に行きつく、というのがキャリアの考え方としてはよいように思います。 他の国の職員たちを見ていても、いろいろな経験をして自分の幅を広げ、「こんなことをやってきました」と売り込める経歴をみな持っています。そういう意味で、インターンシップは大学生ならではの特権。興味のある組織に入り、実際にそこで働いている人たちと一緒に仕事をするのは、とてもよい経験になります。私もベルギーの国連大学で3カ月インターンシップを経験したことが、英国大使館の仕事につながりました。

大島

津田塾大学での経験はどのように役立っていますか。山﨑さんは在学中、ゼミの友人たちともお互いに高め合って勉強していましたよね。

山﨑

津田塾には、よい意味で真面目で一生懸命な学生が多く、「自分も頑張らなくては」と互いに切磋琢磨できる環境がありました。試験前、みんなで集まって講義内容について議論もしました。試験のために勉強するというより、issueが面白いから議論するなんて、なかなかないですよね。大学生のうちに、いろいろな人と議論できるのはよいことですし、議論する力はすごく大事! 特に海外で仕事をしていく場合は、自分の考えをしっかり持ったうえで、それをきちんと説明できる力が求められます。私は津田塾での4年間の学びと、TESS(津田塾大学英語会)のディベートセクションに入っていたことで鍛えられました。

学生

総合政策学部では、英語とデータ・サイエンスの勉強に力を入れています。重要なのはわかりますが、データ・サイエンスはレベルが高いし、課題も多くて大変です(笑)。

山﨑

英語に関しては、やりすぎるということはありません。国際機関で働くためには「英語できます」はスキルではなく、条件の1つに過ぎないので、英語プラス何ができるかが問われます。その点で、データ・サイエンスは非常に貴重なスキルだと思います。いくら強い思いがあっても、エビデンス(根拠)がないとプレゼンも説明もできません。データをどう解釈し、そのデータを使ってどう説明するか。大変かもしれませんが、頭が若いうちに学んでおくとよいと思いますよ。私も大学時代、そういうのを勉強したかったです!

大島

本日はありがとうございました。国際機関での仕事は日本の普通の学生でも、志を持って努力していけば決して夢ではないこと、そして何より、自分の意思を持って仕事をつなげて行くことで、世界に関わり、社会を変え、社会に貢献できる仕事を切り拓いていけるのだということを教えていただきました。これからも山崎さんのようにグローバルに活躍する女性を総合政策でも輩出できたらと思います。

※本インタビューは個人の資格で行われたものであり、必ずしもIFADの公式見解を述べたものではありません。

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