INTERVIEW

新学部のキーワードである「課題解決」をめぐり、各分野で活躍する女性リーダーたちと対談するシリーズ。今回は、ジャーナリストとして、またさまざまな公的機関での仕事を通して数々の難しい社会的課題の解決にあたってきた津田塾大学の卒業生、有馬真喜子さんとの対談後編です。

INTERVIEW 06

物事はゼロか100かではない 有馬 真喜子さん(認定NPO法人国連ウィメン日本協会理事長)-後編-

有馬 真喜子 氏 略歴
広島県生まれ。1957年、津田塾大学英文学科卒業、同年朝日新聞社入社。記者として、横浜支局、本社学芸部などに勤務。68年、フジテレビと専属契約を結びニュースキャスターとして「奥様ニュース」などを担当。88年、(財)横浜市女性協会常務理事、横浜女性フォーラム館長。91年、同理事長。98年、国民生活センター会長。2004年、ユニフェム(現UN Women)日本国内委員会理事長になり、現在に至る。08年、公益財団法人消費者教育支援センター理事長になり、現在顧問。国連婦人の地位委員会日本代表(1986年~97年)、世界人権会議日本政府代表(93年)、第4回国連世界女性会議日本政府代表顧問(95年)。ほかに、数々の審議会の委員を務める。津田塾大学理事。法務省難民審査参与員。
萱野
有馬さんは1986年から90年代にかけて、日本代表や日本政府代表として国際機関で仕事をされてきました。その間、世界が大きく転換するのを目の当たりにされたのではないでしょうか。
有馬
89年にベルリンの壁が崩壊します。それまではどんな問題であってもアメリカとソ連との対立に還元されていましたが、冷戦構造の崩壊で人権、環境、人口など、国連が取り組むべき地球規模の課題で世界会議が開かれるようになった。去年までロシア語で話していたベラルーシの代表が、次の年にはたどたどしい英語でスピーチを始めるなど、時代の変化を実感することができました。
萱野
それはとてもシンボリックなできごとですね。有馬さんは世界人権会議には日本政府代表として参加されました。政府代表となると、有馬さんの立場もこれまでと変わりますよね。
有馬
大きく変わりました。この問題に関して日本政府はこういう対応をとる、という制約にきっちり縛られました。もちろん準備段階で自分の意見は言い、議論しますが。
萱野
自分は賛成でも、政府代表としては反対しなくてはいけない、という状況もあるわけですね。
有馬
それは仕方がないことだと思います。実は93年の世界人権会議では、戦時下における女性に対する暴力が大きな問題になっていました。旧ユーゴスラビアの紛争下で女性に対する性暴力が深刻な問題となり、その流れで日本軍の慰安婦問題もクローズアップされたわけです。これを受けて、95年に日本政府主導で国民からの募金をもとにした「アジア女性基金」が設立されたわけですが、右からも左からも叩かれ、大変でしたね。でも、まずはできることから実行して誠意を表そう、それで足りなければ次の世代が上に積み上げてくださればいい。歴史はそうやってつくられていくものだ、と思って取り組みました。
萱野
何もしないと前に進めない。今の条件のもとで最大限できることをしよう、と考えられたのですね。
有馬
国連で学んだことです。物事はゼロか100かではなく、実際の社会ではいかに妥協点を探していくか、だと思うのです。今の段階ではここまでならできる、というところから始めないと。もちろん、原理原則を貫き、100%を求める立場の人がいても構いません。いろいろな立場で発言する人がいたほうがよいと思います。
萱野
物事を前進させるというのは、大変な労力を必要としますよね。本学の新しい総合政策学部では、社会が抱えるさまざまな課題の解決のために、そうした物事を前進させる力を女子学生たちに獲得してもらいたいと考えています。新学部で学びたいという女性たちに、メッセージをいただけますか。
有馬
やはり現場が大事です。たいていのことはインターネットでわかる時代ですが、感覚みたいなものは、自分がその場に立たないとわかりません。それに、仕事でもなんでも、現場でいろいろなことを体験したほうがおもしろい。それから、これからの女性のリーダーシップって何だろう、と考えたとき、私は共感する力ではないか、と思うのです。ネットの時代ではなおのことですね。
萱野
人工知能がいくら発達して、人間の仕事を代替しても、謝る仕事だけは絶対人間がやらないと納得されませんからね。
有馬
なるほど。私はいつもリーダーになる人間は、お礼状とおわび状を書けなければ、と言っているのですが、それに通じますね。
萱野
いろいろな考えや価値観をもった人たちをうまくとりまとめて合意を引き出していく、というのもリーダーシップの一つかと思いますが、そのときに言葉に対する感覚や感性が非常に大切になる、というお話もありました。言葉への感性はどのように身に着けられますか。
有馬
何でもいいから、本を読むこと。繰り返し読んだり、実際に言葉を使ったりすることでしょうね。ネットの言葉はいろいろつづめていますが、それはどうなのでしょう。人間の感じたものを表現する言葉って、もっと豊かであるはずです。
萱野
ほかに必要な力はありますか。
有馬
聴く力、ですね。この人は何を言おうとしているのか、理解しようと努力する力とも言えます。そこから物事は始まるのではないでしょうか。
萱野
課題解決といっても、その人がそもそも何を問題と感じているのか、何を求めているのか、という課題を発見できないと、解決はできませんからね。
有馬
横浜の女性フォーラムの館長をしていたとき、相談員の方たちから教わりました。「夫に殴られました」「人にだまされました」と相談にくる人なんて誰もいない、と。最初は何を言っているのかよくわからない。しかし、忍耐強く、注意深くお話を聴くうちに、実は暴力を振るわれていたとか、だまされていたといった話が出てくるそうです。
萱野
課題を発見するということも、たぶんコンピュータにはできない、人間にしかできない仕事でしょうね。
有馬
おっしゃる通りです。課題の発見だけではなく、解決の方法もマニュアル通りではなく、マニュアル以外の解決策を見つけてやろうじゃないか、という挑戦する気持ちをもつことも大事ですね。