INTERVIEW

現代社会が直面するさまざまな課題の解決を通じて、社会に貢献できる女性の育成を目指す総合政策学部。 新学部のキーワードである課題解決をめぐり、
総合政策学部長に就任予定である萱野稔人教授が各分野の女性リーダーたちと対談をします。

INTERVIEW 01

課題解決求められる時代 女性が本気で発信を 村木厚子さん(元厚生労働事務次官、総合政策学部客員教授)-前編-

村木 厚子氏 略歴
高知大学卒業後、労働省(現厚生労働省)入省。女性政策、障がい者政策などに携わり、2008年(平成20) 雇用均等・児童家庭局長、2012年(平成24)社会・援護局長などを歴任。2013年(平成25)7月から2015年(平成27)10月まで厚生労働事務次官。
著書に『あきらめない~働くあなたに贈る真実のメッセージ~』(日経BP社)など。
2017年4月より総合政策学部客員教授に就任。
萱野
村木さんは高知大学を卒業後、労働省(現・厚生労働省)に入り、雇用均等・児童家庭局長などを歴任しました。2015年10月まで、女性としては2人目という事務次官も務め、男性が多い官僚の世界で華々しいキャリアを築かれてきた。そのお立場から今後、日本社会ではどのような課題が重要になってくると思われますか。
村木
少子高齢化のインパクトは相当大きいと思います。これまでは人口が増え、経済が成長することを前提に様々な仕組みができ、多少の不具合があっても成長の余力で問題を解決できました。しかし、これからは現役で働く生産年齢人口が減り、高齢者を大量に抱えます。人口構成が変わるなかでの人口減ですので、いままでと違う局面になる。優先順位をつけ、ものごとをしっかり考えていく知恵が必要とされる時代です。
萱野
「あれも、これも」ではなく「あれか、これか」を迫られるわけですね。新しい問題が次々と出てきても、税収は増えないので、結局は後世にツケを残す形になってしまいます。
村木
女性がもっと活躍できるよう、社会の仕組みを変えることと、子を持つ選択が可能になる環境を若い人たちのためにつくることが大きな課題。いま投資すべき対象は女性と子どもである、とみんなわかっているのに、まだそこにスピード感をもって踏み込めていません。やはり若い世代のほうが政治力は弱いですから。
萱野
女性や子育て・教育に予算を回そうとすると、どこかを削らないといけない。民主主義社会では、この「削る」という作業が大変ですよね。女性が活躍できる環境整備のために村木さんが特に注目されている問題は何ですか。
村木
保育という、ごくベーシックなサービスです。せめてこれだけでも、あと何年で解決できるか、日本は試されていると思います。自治体が本気になって予算をつければ解決できるはずで、それさえできないとしたら、この国は救いようがないかもしれません。もう一つは、働き方の問題。こちらは、お金や行政の力だけで解決できるものではなく、会社はもちろん、一人ひとりの行動や文化も変えなくてはならないので、とても難しい問題です。
萱野
保育に関しては、なぜなかなか前進しないのでしょうか。
村木
2015年4月に導入された「子ども・子育て支援新制度」により、保育所の整備を加速化する動きにはなってきました。ただ、ネックになっているのが保育士不足。そのためには、一つには保育士の給与を上げる必要があります。10パーセントとなる消費税がその財源になるはずでしたが……。それから保育士の労働条件も、もう少し改善しなくてはなりません。お父さん、お母さんたちの労働時間が長くなると、保育所の開所時間も長くなり、結局は保育士の労働条件も悪くなります。
萱野
長時間労働は、働き方の問題のなかでも大きいですよね。
村木
日本の企業で、特に正社員の働き方が長時間である限り、育児・家事などを背負った人たちは二流社員になってしまいます。日本の場合、非正規の処遇は相当低いわけですが、同じ正社員であっても、やりがいのあるメインストリームの仕事ができなくなることが多い。「それなら産みません」とあきらめてしまうのは、もったいない話です。
萱野
キャリアか子育てか、選択しなければいけない、という時点で環境としては不十分ですよね。
村木
先進国で女性が働けている国は、じつは出生率も高いという相関関係があります。日本の社会でも、女性に活躍してもらいたいというメッセージは、いまはっきり出てきた。しかし、まだ環境が整っていないなかでは家庭生活や子育て・介護はどうするのか、といったジレンマがあります。結局、いまの若い人たちが本当に納得いく人生を送るためには、大変かもしれませんが、政治に関心をもち、職場のあり方や働き方、自分たちが生きていく環境などをきちんと考えていかないと、あきらめて人生を過ごすことになってしまいます。
萱野
課題解決すること自体が、自分の人生を切り開いていくことにもなるわけですね。
村木
若い人たちが本気で考え、行動してくれると、ジレンマが解消されていくのではないか、と期待しています。「課題解決」というキーワードを津田塾大学の新学部が掲げているのはとてもよいことで、いまの若い世代は、それを求められる時代に生きていかなければならないのだな、と思います。
萱野
私は哲学が専門なので「お金で買えないものは何だろう」と常々考えるのですが、一番買えないのは「納得」だと思うのです。自分で何かをやってみて、それでできないのであれば納得できます。それは、お金では買えません。
村木
私もそれに近いことを考えています。若い国だと、国全体の未来が明るくて、みんな同じ方向に進んでいます。しかし、成熟した社会で自分が納得できるように生きていくとなると、自分の人生を何に懸けるか、私は何をするべきだろう、ということを真剣に考えなくてはいけなくなりますね。
萱野
そこに女性が積極的にかかわっていく意義とは。
村木
男性と女性とでは能力は一緒でも、まだまだ選択を迫られるのは女性のほうが多い。女性にしか起こらない、出産のような大きなライフイベントもありますよね。なぜ自分はこうした状況におかれているのか。社会はどうあってほしいのか。選択を迫られている女性たちが本気で発信していかないと、社会は変わらないと思います。選択を迫られない人たちは気づかないのですから。